血と泥にまみれた死闘の末、勇者一行はついに世界に平和をもたらした。
数百年ぶりに雲が晴れ、廃墟に朝陽が差し込んだあの朝。
誰もがそれを「終わり」だと信じた。
愛する人と寄り添い、故郷へ戻り、森へ帰り、それぞれが命がけの戦いの果てに手にした「当たり前」を生きている。
王都では人々が笑い、市場に活気が戻り、子供たちが無邪気に走り回る。
世界は確かに、美しく輝いていた。
各地に現れ始める「闇の残滓」。
人を傷つけるわけでもなく、ただ大地を枯らし、人の意志をじわじわと溶かしていく正体不明の影。
英雄たちが命を燃やして守ったはずの世界が、誰にも気づかれないまま、少しずつ侵食されていく。
世界とあの深淵を隔てる壁に、禁断の亀裂が刻まれ始めていた。
平和という名の夜明けは、本当の夜明けだったのか。
それとも、もっと深い闇が訪れる前の、束の間の凪(なぎ)だったのか。
守るべきものを抱え、それぞれの場所で生きる人々を、
世界の崩壊が静かに、しかし確実に呑み込もうとしていた。